公開日:2026年8月18日

「全部録画で見られるけど、真似したところで売れるわけじゃない」——
と、エンターテインメント&プロダクション本部 セールスエンターテインメント部 キャスト&コーディネーターグループ長の林氏は振り返ります。
24時間365日、生放送で商品を紹介するショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」を運営する、ジュピターショップチャンネル株式会社。1時間の番組をキャストが台本無しで進行するこの現場では、ベテランの“伝わる力”が長年、言語化されずにいました。
同社は、Umee Technologies株式会社が提供する対話インサイトAI「Front Agent」を導入しました。まず3か月間、ベテランキャストと経験の浅いキャストの差分をUmee側から分析レポートとして受け取り、その後、現場のキャストが自分で解析結果を読み解いて使いこなす段階へと進みました。最初の利用者となったキャストの上田氏が担当した番組では、予算を達成した番組の割合が従来の約1.45倍に上昇しています。
台本のない現場で、暗黙知をどう資産に変えていったのか。竹内氏、林氏、上田氏に伺いました。
企業名 | ジュピターショップチャンネル株式会社 |
|---|---|
業種 | テレビ通販/24時間365日生放送 |
導入サービス | Front Agent(対話インサイトAI) |
登場者 | 竹内 一平 氏 林 理絵 氏 上田 恵 氏 |
課題 | 育成指導の属人化・標準化困難 |
導入時期 | 2026年3月〜5月末 分析レポートの提供 、6月 現場キャストでの活用開始 |
成果 | 予算を達成した番組の割合 約1.45倍 、予算達成率 約1.10倍 ※いずれも上田氏が担当した番組を対象とした集計 |

目次[非表示]
商談の録音、議事録、日報——現場のやりとりをデータとして残す仕組みは、いまや多くの会社にあります。しかし、貯まったデータがそのまま人の成長につながるわけではありません。何が成果を分けているのかを読み取れなければ、記録は記録のままです。
ジュピターショップチャンネルは、放送した番組は全て録画されている状態でしたが、24時間365日放送している番組を全部見直して、分析することは現実的に不可能なため、活用しきれていませんでした。
同社の基幹ビジネスは、24時間365日、生放送で商品を紹介し続けるショッピング専門チャンネルです。1時間の番組にト書き・台本はなく、キャストが台本無しで進行します。キャストの上田氏は、番組前の準備をこう振り返ります。

上田 恵 氏
エンターテインメント&プロダクション本部
セールスエンターテインメント部
キャスト&コーディネーターグループ CAST
「演出の方々が作った商品資料やフリップの一覧、バイヤーからの説明動画、過去のオンエア動画、と情報量がとても多いです。それを一つ一つ確認して、その上で構成に落とし込んでいく作業が必要です」(上田氏)
キャストの個性を生かしてよいという自由度は、同時に型のなさでもありました。
「キャストの個性を生かしながらやっていいよ、と言われているところが、いいところでもあると思います。けれど、経験がない人間からすると、手探りでやっていくことになるんですよね」(上田氏)
同社の育成には、他の業種と異なるところがあります。営業のように商談が一対一で閉じているわけではありません。過去の放送はすべて映像で残っていて、社員なら誰でも見ることができます。ブラックボックスではありません。
「1対1の営業の方と違って、特にブラックボックス化されているわけではない。映像を確認すればベテランキャストのやったことを見られる、というのはあるんですよね」(林氏)
そのうえで、林氏はこう続けます。
「全部見ることはできるけれども、真似したところで同じように売れるわけじゃない」(林氏)
理由は、同じ条件で放送が再現されることが二度とない、という生放送特有の環境にあります。放送時間帯、視聴者層、裏番組、季節、天候など——毎回すべてが違います。
「『こういうふうにやるんだ』という意味で勉強にはなるんです。ただ、ベテランキャストと同じようにやっても全然売れなくて」(上田氏)
教わる側だけでなく、指導する側も属人的なフィードバックをしている状態でした。
「フィードバックする担当者によって、どのポイントを指摘するか、どう言語化するかが、トレーナー個人の感覚に委ねられている。指導内容を標準化するのがすごく難しいんですね。正解がありません」(林氏)

林 理絵 氏
エンターテインメント&プロダクション本部
セールスエンターテインメント部
キャスト&コーディネーターグループ長
指導する側の時間も足りませんでした。「キャストがインプットしたものを放送で出せたかどうかは、私も彼らのインプット内容を把握していないと評価できない」(林氏)——現実的にはその時間が取れません。キャストからすると「フィードバック内容にばらつきがあるということは起きてしまう」と、セールスエンターテインメント部長の竹内氏は語ります。
「それぞれのフィードバックは、ものすごく勉強にはなるんです。その一方で、何が正しいのかというのが自分でもわからない、という状況はしばらく続きますね」(上田氏)
課題の核心を、竹内氏はこう言い当てます。
「このベテランは、なんかうまいな、番組を見ていても、なんか伝わってくるな、という、その『なんか』という部分が、要は可視化できていない、言語化できていない」(竹内氏)
番組構成を1から10まで作り上げる担当者はいません。「うちならではの、お客様に伝わる素晴らしい構成とは何ぞや、というものが可視化・蓄積されていない状態だった」(竹内氏)——それが一番の課題だったといいます。
竹内氏は当初、育成の仕組み化そのものに懐疑的でした。「背中を見るしかないんじゃないか、場数を踏むしかないだろう」と思っていたといいます。それでも営業支援AIの存在は知っており、調べ始めました。
以前見たPIVOTの動画の記憶と、検索で見つけたサービスが結びついたのは、オンラインで最初の打ち合わせをする直前でした。問い合わせを始めたのは2026年1月頃、比較検討は当初5社ほどです。他社と比較して見えてきたのは、自分たちがやりたいことが本気でできそうな期待にあったといいます。

竹内 一平 氏
エンターテインメント&プロダクション本部
セールスエンターテインメント部長
「求めるレベルに至ってないものや、ある程度レベルの高いものがあっても、やっぱりカスタマイズ性がすごく低かったんですよね。大手サービスだと、すごく時間がかかってお金がかかる、という話もありました」(竹内氏)
そのなかでFront Agentだけが、実際に試してみる価値があると判断されました。
「オリジナルのAIで、ハルシネーションが起こらないみたいなところであったりとか、あとは他社さんの導入事例の話であったりとか、最初軽めに探してたんですけど、これは結構本気でできそうだなっていうふうにこっちも変わっていった」(竹内氏)
軽く調べるつもりが、本格的に検証してみようという判断に変わりました。比較したなかで、実際にPoCまで進んだのはFront Agentだけでした。
はじめの3か月間、Umee側のプロジェクト担当者が同社の音声データを解析し、分析レポートを提供する形で伴走しました。
ベテランキャストと経験の浅いキャストを10名ほどピックアップし、その差分を可視化する——これがこの期間の中心的な取り組みでした。
竹内氏は、Umee側の担当者がベテランキャストの「型」を解説した場面をこう振り返ります。
「我々から提示したベテランキャストの、それぞれの型、流派みたいなところを解説してくれたときに、全く番組を見ていないのに、ほぼほぼ合っていたんですよ」(竹内氏)
長年言語化されてこなかった“伝わる力”の中身も、この段階で見えてきました。商品の説明ではなく、その商品を使って得られる体験までをベテランは語っている——同社が漠然と感じていたことが、わかりやすく可視化された瞬間でした。
「ベテランは、お客様がその商品を使って得られる体験、価値みたいなところまで(言っている)。ベテランキャストも多分そこまで意識的に言語化してないと思いますが。ただ、そこまで言葉として表現できているよね、というのが、ちゃんと見えた」(竹内氏)
「ベテランのゴール設定と、経験値のまだ浅いキャストたちのゴール設定に違いがある、というのが見えたのが、大きいなと思った」(竹内氏)
5月末以降、伴走は延長されました。同社のデータとの連携を含め、業務に合わせた調整が、Umeeとの共同作業として続いています。どこまで自社にアジャストしたものになっていくか——竹内氏はその過程を「楽しみな状況」と表現します。
現場での活用が始まったのは2026年6月です。最初にFront Agentを使うキャストとして選ばれたのは、上田氏でした。実際に解析結果を目にしたときの第一印象は、率直なものでした。
「最初は『なんだ?これ』みたいな」(上田氏)
やることが増える、という感覚もありました。
「今までの準備・勉強どおりに自分で構成を作って、こういう展開でやっていこう、と決めたものにプラスでやることになるので。単純にやることが増えた、という感じでした」(上田氏)
転機は、解析結果の読み方そのものを、Umee側の担当者からレクチャーされたことでした。ツールを渡して終わりではなく、どの画面を、どう読み、番組づくりのどこに使うのか——現場に伴走する形で共有されました。
上田氏は、解析結果の見方をUmee側の担当者から教わったと振り返ります。
先輩の発言の引用についても、同じように使い方を教わってから使うようになったといいます。
「解釈の仕方を教えていただきました。それから少しずつ自分でやってみたっていう感じですね。教えていただいた後は、使えるようになりました」(上田氏)
マネジメントが難しいと感じていた機能まで、現場が使いこなしていきました。
「解析機能も、僕らは使いこなすのは難しいかなと思ったんですけど、逆に上田はそっちをだんだん使っていった」(竹内氏)
慣れるにつれ、負荷も変わりました。
「使い方に慣れてくると、『じゃあ今日はここをピンポイントでやればいいんだ』というのがわかってくるので、うまく使えば時短にもなります」(上田氏)
新人時代、フィードバックは四方から届きます。社内だけでなく、視聴者からも。
「同じ番組をやっても、真逆の意見をいただくことが多いんですよ」(上田氏)
どの意見を手がかりにすればいいのか、判断がつかなくなることもあったといいます。この矛盾に対して、分析結果が一定の軸として機能し始めました。
「Front Agentが冷静に分析してくれることで、ぶれない人が、ちゃんとぶれない回答をくれているという安心感がありますし、自分がもともと考えた構成案や展開を、より最適化した状態で番組に臨めるようになる」(上田氏)

準備の仕方も変わりました。以前は、キーワードをどう活かすかという文脈を自分で作り出すしかありませんでしたが、「理想的なキーワードの使い方や肉付けの仕方を、ピンポイントでできるようになった」(上田氏)といいます。
本番中の変化も出ています。
商品が違っても、自分が失敗しているパターンは共通しています。それを事前に把握できるようになりました。
「ライブをやっている途中でも『このままいったら、いつもの私の失敗パターンになってしまう』というところで、前半が苦しくても後半で巻き返すような、テコ入れする力は結構ついてきたように思います。事前に解析をしてくれているから、軌道修正が思い切ってできるようになった」(上田氏)
番組は、もともと一人で作るものではありません。プロデューサー、TD(テクニカルディレクター)——多くの職種が関わります。変わったのは、その共有の解像度でした。
「プロデューサーやTD(テクニカルディレクター)といった方々に、『今日はここにポイントを置きたい』というライブイメージを、今までより解像度を上げた状態で共有ができるようになってきた」(上田氏)
共有の粒度が上がったことで、番組の盛り上がりどころが伝わりやすくなったといいます。
指標(上田氏担当番組) | 成果 |
|---|---|
予算を達成した番組の割合 | 約1.45倍 |
予算達成率(売上実績÷目標売上) | 約1.10倍 |
項目 | 導入前 | 導入後 |
指導の拠り所 | フィードバックする人によって指摘内容が異なり「正解がない」状態 | 分析結果という「ぶれない回答」が拠り所になった |
準備の仕方 | キーワードを活かす文脈は自分で手探りに作るしかなかった | 使い方・肉付けの仕方をピンポイントで絞り込めるようになった |
本番中の軌道修正 | 自分のパターンを本番中に客観視する手段はなかった | 成功・失敗のパターンを把握できたことで、途中でズレても立て直せるようになった |
番組前の共有 | 共有の粒度は人によってばらつきがあった | プロデューサー・TDへの共有解像度が上がった |
会社への蓄積 | 「ショップチャンネルならではの、伝わる構成とは何か」が言語化・蓄積されていなかった | 資産としての活用を推進中 |
上田氏は自身の手応えとして、やり切った感覚を持てるようになったといいます。
「売上結果は様々な要因があるので、完全に自分の力と言えるわけではないと思います。ただ、思い描いていたライブを、ちゃんと理想の形で全うできたなと思うことは、確実に増えたかなと思います」(上田氏)
竹内氏が「これは大きい」と語ったのは、数値そのものよりも、これまで数値にならなかったものが見えるようになったことでした。
「毎週、営業関連部門が集まるミーティングがあるんですが、まずは定量面の売上の話があり、じゃあ番組内容は、という話になったときにどうなるかというと、『セールスポイントは全部言えていたんだけど、なぜか売れなかった』みたいな会話がよく発生するんですよ。そういう定性的なものってすごく大事なんですけど、それがちゃんとデータになっていない。そこをすごく担ってくれているFront Agentは、今までにない画期的なものかなと思っています」(竹内氏)
マネジメント側の使い道も見え始めています。
「デビュー後のケアが課題だったが、今後は、Front Agentを活用することでできるようになると感じています。Front Agentの解析結果と自分の感覚がマッチしていれば『自分の考えで間違いない』ということが認識できるので」(林氏)

取り組みは社内でも注目され始めています。竹内氏によれば、ある番組で社長がこう気づいたことがあったといいます。
「『上田さん、訴求の仕方が前と変わったよね』と。商品を使用した際の話のボリュームが増えて。そうすると、自然と上田も熱量が上がり、カメラマンもTDも、自然と上田の顔を撮るんですよ。今までよりも上田の顔がよく映る番組になっていた」(竹内氏)
「『暗黙知を可視化するというのは、とても素晴らしい取り組みだね』という話もいただいているので、経営側からも期待が高まっているなと感じています」(竹内氏)
同社では、番組編成などにも生成AIを活用しており、お客様に何が良いのかという観点でAI活用を進めていくことを重視されています。
3氏がそれぞれ語ったのは、何を評価軸に置くかという論点でした。
「今までの生成AIの使い方だと文字起こししたものを入れて『こういうふうに分析してください』と言うだけなので、(回答として)画一的なものしか出てこない」(林氏)
「生成AIは、とても上手に答えを作ります。だから時々、AIと対話しているというより、自分が説得されていくような感覚になることがあります。大事なのは、その答えが正しいか否かではなく、お客様の期待を理解し自分たちが何を意思決定したいのかを見失わないことだと思っています。」(竹内氏)
「いろんな知識をくれるので、とりあえず武器は増えたけど、やみくもにそれを使ってしまうので、それがお客様にとっていいライブになるとは限らない」(上田氏)
Front Agentでの分析結果から、キャストが番組構成を検討・判断するよりどころができ、本番中に自分が失敗しているパターンに気づけるようになりました。番組前のプロデューサー・TDへの共有解像度も上がりました。定量面では、上田氏が担当した番組を対象とした集計で、予算を達成した番組の割合・予算達成率の改善が確認されています。
現在の活用はライブ前の準備が中心で、放送後の振り返りへの活用もこれから本格化します。対象も、最初の1名からベテランを含むキャスト全体への展開へと進んでおり、さらなるゲストのスキルアップへと広がる可能性があります。さらにライブ前後だけでなく、放送中の支援も視野に入り始めています。
「今はライブ前、ライブ後みたいなところですけど、ライブ中の支援みたいなものまでやれそうだ、という話もいただいているので、そこはとても楽しみです」(竹内氏)
「あとは社内の他部署にも使えるものだと思っています」(竹内氏)

竹内氏は、“人に伝わる”スキルはテレビ通販に固有のものではないと考えています。
「商品の魅力を伝えるって、別にテレビ通販ならではのことをやっているわけではなくて。物だったり、ことだったり、人だったりの良さを、分かりやすく・魅力的に伝えるというのは、全てに共通するプレゼンスキルだなと思います。テレビ通販だけじゃなくて、どの業態においても必要なツールになっていくんじゃないかなと思ってます」(竹内氏)
上田氏は、育成への期待感を口にしました。
「私みたいに、しゃべりの仕事をしていなかった人でも、うまく育成ができるようになってくるんじゃないかと思います」(上田氏)
竹内氏は、Front Agentの位置づけをこう語ります。
「人を減らす、人に代わってAIが登場するのではなくて、人の能力や魅力をAIが拡張していくという方が絶対に良いと思っているので、そこに共感しています」(竹内氏)
分析の示唆を受け取ることから始まり、現場が自分で使いこなす段階へ——ジュピターショップチャンネルの歩みは、ベテランの暗黙知を個人の資産から会社の資産へと変えていく過程の、最初の一歩です。上田氏はこう言葉を結びます。
「番組をつくる皆さんと同じ方向を向いて、いい番組を作るという意味で、いい役割を果たしてくれるんじゃないかなと思います」(上田氏)
CATV放送、衛星放送、インターネット、カタログ等の媒体を通して通信販売を展開する「ショップチャンネル」の運営を中心としたダイレクトマーケティング事業を展開。
すべては 「心おどる、瞬間を。」お届けするために
ショップチャンネルは、エンターテインメントとしてのショッピングを通じ、良い商品とお客さまをつなぐストーリーをつむぎ出し、多様化するお客さまの毎日の暮らしに「心おどる、瞬間」を提供していきます。
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